農家にとって獣害は、深刻な問題だ。
異常気象もさることながら野生動物による食害は、近年ニュースでよく取り上げられるようになっている。主に猪や猿などが多いが、青森県下北地方ではツキノワグマによる食害が深刻である。
その地域にある「サンマモルワイナリー」の下北連山に広がる12ヘクタールのブドウ畑も例外ではなかったそうで、野生動物による食害について社長北村に話を聞いた。
「本州最北端で電車もない、一面海と緑の大自然下北半島では、スズメバチなど害虫やタヌキ、ニホンカモシカなど様々な野生動物の被害に見舞われます。
その中でも最大の食害を及ぼすのはツキノワグマです。最近では地域のマタギ(猟師)も高齢化でいなくなり、まさに食物連鎖の頂点に君臨しています。爆発音や光による仕掛けを設け威嚇をしますが、全く我関せずで、高価なワイン用ブドウをたらふく食べて立ち去ります。
ツキノワグマにもどうやら好きなブドウの品種があるようで、ピノ・ノワールを始め8品種ほど栽培していますが、特に”シュロンブルガー”と”ライヒェンシュタイナー”という2つのドイツ系ブドウ品種を好んで食べます。両品種ともワイン用ブドウ品種ですが、そのまま食べても大変美味しいので、そのおいしさに熊も驚いているのではないでしょうか。」
大自然の中での農業だから多少の食害は出るのだろうと思われるが、その被害はワインに換算すると1,000本以上と、かなり深刻な量であり、サンマモルワイナリーにも大きな打撃を与えた。
そこで思いついた奇策が、ツキノワグマの好む2つのブドウ品種をブレンドし「下北ワイン Danger」~クマ出没注意~と銘打ったオリジナルワインの発売であった。
裏ラベルにはQRコードが印字されており、実際に夜間にツキノワグマがぶどう畑に侵入し、ブドウを貪り食べているシーンを見ることができるというから驚きだ。
このワインの特徴は、柑橘系の果実やりんご、白桃、ライチ、白い小さな花をイメージする香り。爽やかな酸味がしっかりとした輪郭を作り、ほのかな甘さがふくよかなワインを演出している。
サンマモルワイナリーは陸奥湾沿岸にあることから、地元産のホタテなどをはじめ、多くの海産物の料理とマリアージュすることは間違いないだろう。熊がどんなブドウが好きなのか想像しながら味わうと、より一層このワインを楽しめるのではないだろうか。